お母さんへ

新しいコートを下ろした。

 


ジルバイのダスティピンクのチェスターコート。

甘すぎなくて、でもかわいくて、ビジュー付きで、一着ちゃんとしたコートを持ってたくて、だいぶ無理して買った。

ファーとかついてるのは好きじゃないから、そういうのはなくてよかった。

 

 

 

子供の頃、ファー付きのめんこいコートを絶対に着たくなくて、

真冬でも袖なしのぺらぺらのベストみたいなのしか着てなかったなあ。

お母さんは、私にふわふわもこもこのお洋服を着て欲しかったんだろうか。

私がもっと可愛かったら、愛嬌があったら、お母さんの理想の娘になれてたのかな。

 

 

 

ママって呼ぶのが恥ずかしくて、お母さんってしか呼べなかった。

スカートとかワンピースだとわんぱくできないから、いつもジーンズだった。

勉強は別に得意でもなかったけど、井の中の蛙で、自分のことを頭がいいと勘違いしてろくにやらなかった。

それなのに、お母さんのお手伝いはやらなかった。

 

 

 

お母さんに不細工だ、心の醜さが顔に出てると言われるたび

この顔に産んだのは誰だよと思ってたし

私を殴るお母さんの顔はいつもひどく歪んでいたから

お母さんだって醜いなあと思っていた。

 

 

 

お母さんは、今はだいぶ小さくなった。

使ってないJILLSTUARTのアイシャドウをお母さんに持っていったら、

ニコニコしながら「これお母さんにくれるの、お母さん貰っていいの?」って言ってた。

昔だったら「こんなもんどこで盗んできたんだ!ブスのくせに化粧したって無駄だ!こんな金使う余裕あるならおらげによこせ!」

って怒鳴り散らしながら髪の毛持って家中引きずり回してたんだけどな。

小さくまとまって、欲しいものあったらお母さんが買ってあげるよ、なんて言われる日が来るとは思ってなかった。

 


ちぬにはクリスマスプレゼントあげれてなかったからね、

この鏡とっても素敵だからお母さんからのクリスマスプレゼントね、

なんて言われて、

大好きなジルの鏡を買ってもらった。

 


お母さん

 

 

 

お母さんあたしダメな子供でごめんね。

お母さんは昔私のことを疫病神だと言った。私もそう思うよ。

お母さんはお前のせいで不幸せなんだって言ってたね。私もそう思うよ。

お母さん幸せにしてあげられなくてごめんね。

一緒に住んであげられなくてごめんね。

さみしい思いさせてごめんね。

 

 

 

 

歳を重ねるうちに、お母さんに謝ってほしい、と思うことは減った。

確かに私は昔めちゃくちゃに殴られたし、死ねって言われ続けたし、何度も殺されそうになった。

確かにそうなんだけど、でも今は、その何倍も

謝りたいことがたくさんたくさんある。

 

 

 

学校でずっといじめられていたこと。 親からもらった体にたくさんの傷をつけたこと。

14年以上パニック障害を患っていること。

自殺未遂も何回もしたし、そのうち何回かはICUに入院してしばらく出てこれなかったこと。

医療保護入院になった時は、往復三時間半かけて毎週面会に来てくれたこと。

心の病気は弱い人間がなるものだ、って言ってたお母さんが、今は無理しなくていいからね、頑張ってるからねって言ってくれる。

お母さんはあたしなんて産まなかったら、心の病気なんて知らずに済んでたはずなのに。

心が健康な子供だったら、よかったのに。

お母さん、本当に本当にごめんなさい。